わが国で医薬の祖神と言われているのは、大穴牟遅神(おおなむちのかみ)と少古那神(すくなびこなのかみ)の二神で、共に一致協力して国土経営に、それぞれ特有のご神徳を発揮し尽力されたと「古事記」や「日本書紀」に述べられています。

  大穴牟遅神は須佐之男神(すさのおのみこと)の子孫で、大国主命とか大黒様など五つの名を持った神様で、福徳円満の神として日本人に親しまれ、特に因幡の白兎神話は有名です。
  因幡の白兎が鰐を騙して島を渡ろうと企み、露見して毛をむしり取られ海岸に丸裸でいるのを見た神が、可哀相に思い真水で体を洗って蒲の穂綿にくるまっているようにと、親切に治療法を教えてやったという物語は余りにも有名で、このようなことが医療の神様ということになり、神話時代の国王としての資格が充分に具わったことから、後に出雲の国王になられたのです。
  Yakusokami

  大穴牟遅神は現在でも日本のかなり広い地域で、大黒様として神棚に祀られていますし、また、出雲大社をはじめ各地にある氷川神社のご神体になっているものを見ても、如何に日本人が尊敬の念を持って崇めていたかが分かります。

  少古那神は天照大神より更に古く、宇宙創造根元神三神の内の一神に神産巣日神(かみむすびのかみ)がおり、その長子で親神の手の指の股から生まれ、蟻に似た火取虫の皮を剥いで纒っていたというから大変小さな神であったようだが、至って精悍で常に処々を飛び歩き所在がしられなかったという。そんなことで久しく海外にいたことから医薬のことに精通し、また酒の作り方にも詳しかった神様でした。

  ある日大穴牟遅神が美保岬に行かれた時、海の彼方から蛾の皮を纏いガガイモの莢(さや)の舟に乗ってきた少古那神を発見して兄弟の契りを結び、以来、国造りの知恵袋的存在になってもらった神なのです。このように少古那神は大穴牟遅神の絶大な協力者で出雲朝廷の国政に関与していたのです。

  日本橋本町の薬業界では、昔からこの二柱を祭神とする水戸の大洗磯前(いそさき)神社、酒列磯前神社や東京上野の五條天神社に、参詣して崇敬の念を表してきましたが、明治41年(1908)東京薬種貿易商同業組合(薬貿協会の前身、現社団法人東京薬事協会)が、前記五條天神社から薬祖神の御霊を迎え、11月22日、23日の両日、本町において大祭を行ったのをきっかけとし、以後隔年に大祭を執行していた。




  昭和4年(1929)11月、事務所建物を本建築にした際その屋上に薬祖神社を造営してからは、その祭典もいよいよ盛大に挙行されるようになり、殊に昭和8年の記録には「参詣者5千人、3千本の縁起飾り忽ち出尽くす」とあり、更に昭和10年の大祭には「参詣者7千人、縁起飾り6千本」とあって当時の賑わい振りが偲ばれます。

  終戦後の昭和21年(1946)11月、戦後初の薬祖神祭が挙行されたが、この時代は神前に供える御神酒にも事欠く苦しい世相でした。
  昭和29年(1954)薬祖神祭を薬業界だけの祭りでなく、地域の行事にしようとの考えから、他の方々にも呼びかけ「薬祖神奉賛会」が結成され、初代会長(当時は総代といった)に三共株式会社鈴木万平社長を迎え発足した。これを契機に従来、薬貿協会が主催してきた祭典業務の一切(事務局は薬貿協会が兼務)が同奉賛会に引き継がれた。

  祭日は旧習どおり11月22日であったが、昭和31年度(1956)から10月17日に改め今日に及んでいる。
  昭和58年(1983)旧薬貿会館が取り壊され、新たに「昭和薬貿ビル」の竣工時に奉賛会会員の総意とビル所有者のご好意により、その屋上に新社殿が造営され祭儀を継承している。




  例年の行事はおおむね次のとおりです。
  祭日は原則として10月17日ですが、土・日曜日に当たる場合は繰り上げ、繰り下げが行われます。
  式典は当日の午後2時から屋上にある神社において、五條天神社宮司が斎主となり執行され、奉賛会役員・来賓・会員事業主が参列し玉串奉奠を行う。式典終了後は引き続き2階の会場で祝宴(直会)が行われる。

  一般参拝は午後3時30分から6時50分の間に行い、午後6時前後が人出の最盛期となります。
  この時間内に一般参拝者のため「おみき」や「おしるこ」が振舞われ、このほか籤引きに当った人には「福袋」が配られます。

  なお、当会の特色として全会員に縁起飾りの「神壺」(しんこ・おけら笹)を配付します。また、会員名が書かれた「奉納提灯」を配列し夜間点灯する。さらに会員有志の奉仕による「薬用植物生け花」を展示して都民に対する薬用植物のPRを行っています。
  そのほか神社のある昭和薬貿ビルの通りには、特設屋台を設け浜町の子供連中による「祭礼ばやし」を行い、祭り気分の盛り上げに努めています。




五條天神社
東京都台東区上野公園4−17   TEL: 03-3821-4306

大洗磯前神社
茨城県東茨城郡大洗町磯浜6890   TEL: 029-267-2637

酒列磯前神社
茨城県ひたちなか市磯崎町4607−2   TEL: 029-265-8220